研究内容


量子化学計算や分子動力学計算などの理論計算手法を駆使しながら, 液体系や生体分子系といった凝縮相系の構造・ダイナミクス・ 分子間相互作用・分光学的性質・機能などの解明に取り組んでいます。

  • タンパク質と溶媒やリガンドの相互作用
     タンパク質は,「折れ畳み」と呼ばれる構造形成によって,機能を発現します。 そこには,タンパク質内部のペプチド(O=C-N-H)間の相互作用のほか, 溶媒との相互作用が重要な役割を果たします。 また,タンパク質と相互作用するリガンドの中には,ハロゲン原子を有するものがあり, 特有な相互作用(ハロゲン結合と呼ばれる)をすることが知られています。
     タンパク質の振動スペクトル(赤外・ラマンスペクトル)には, 構造・ダイナミクスや溶媒・リガンドとの相互作用についての情報をもたらすバンドが存在します。 静電相互作用と,電子の振舞いは,特に重要な役割を果たします。 この点について,理論的解析を進めています。


    J. Phys. Chem. B 122, 154-164 (2018).

    J. Phys. Chem. B 120, 1624-1634 (2016).

  • 水素結合系における電子の振舞いとテラヘルツスペクトルの強度
     水は,我々の周りに存在する最もありふれた液体ですが, 液体としてはさまざまに特有な性質を持っています。 そして,そこに重要な役割を果たしているのが,水素結合です。 水素結合を形成している分子間の配置やその時間変化の様子についての知見は, 水素結合系の諸性質の理解に不可欠です。
     また水素結合は,タンパク質分子内における螺旋構造やシート構造といった「2次構造」の形成や, DNAの遺伝情報を司る核酸塩基間の相互作用にも,大きな役割を果たしています。
     テラヘルツ分光は,水素結合系の構造やダイナミクスを観測する有力な手段ですが, その強度には電子の振舞いが深く関わっていることが,明らかになってきています。 この点について,理論的解析を進めています。関連して,同じ振動数領域の ラマンスペクトルの強度生成メカニズムについても,解析を進めています。


    Phys. Chem. Chem. Phys., in press.

    J. Chem. Theory Comput. 10, 1219-1227 (2014).

  • 電解質溶液内におけるイオン周囲の構造形成
     我々に最も身近な電解質溶液は,食塩水ですが,そのほかにも, 我々の日常にはさまざまな電解質溶液が関わっています。 その諸性質の理解のためには,イオン周囲に形成される構造を 明らかにすることが不可欠です。
     特に,2種以上の溶媒を混合した溶液系では,イオンの周囲に 存在する溶媒の種類が偏る「選択的溶媒和」が生ずることがあり, 溶液の機能にさまざまに関わっています。以下に示したのは, リチウムイオン電池にも使用される種類の混合溶媒溶液系における 選択的溶媒和の様子を,ラマン分光と理論計算により解明した例です。
     タンパク質の中にも,金属イオンを含むものがあり,機能に対して さまざまに寄与しています。これについても,関連研究として 進めています。


    ・M. G. Giorgini, K. Futamatagawa, H. Torii, M. Musso, and S. Cerini, J. Phys. Chem. Lett. 6, 3296-3302 (2015).

  • 関連した基礎理論
     これらの課題に関連して,さまざまな基礎理論的研究も行っています。


    Phys. Chem. Chem. Phys. 18, 10081-10096 (2016).

    J. Comput. Chem. 31, 107-116 (2010).
    AIP Conference Proceedings 1504, 228-239 (2012).